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18世紀の亜麻の花


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石畳のゆるやかな坂を下りながら
その日は閉まっている古書店の店先に飾ってある絵に吸い寄せられて
少し離れたところから見たときには
ケシの花の一種が描かれているのかと思って近くまで行くと
LINUM corymbiferun 
と書かれている。

さらに坂道を下りながら「LINUM、LINUM…」と口の中で繰り返しながら
あれ、もしかしたら
そう思って、家に着いてから調べると
そうであった、亜麻の一種である。

白と黒のおそらく版画のこの絵が亜麻であったことに少々感動しながら
数日後に、またその店先に行くと
その絵があった場所には違う絵が飾られていた。

売れてしまったのかなと残念な気持ちになったけれど
その日は時間がなくてお店の中に入って聞くことができなかった。

最初にその絵を見てから2週間が経って
古書店のガラスのドアを押して中に入った。

入り口のすぐ左手に
図書館司書の雰囲気を醸し出しているマダムが静かに座っていた。

「しばらく前に店先に飾られていた亜麻の花の版画は売れてしまったでしょうか」
と尋ねてみると
「さあ、どうかしらね。売れてしまったかもしれないわね。」
版画が挟まれているカルトンの中を探してくれた。
マダムが見てくれている版画には色がついているものばかりだったので
「白黒のものでした」と言うと「そう?」といって
別の少し大きめのカルトンの中を見てくれた。

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あの絵が出てきた。
「これは18世紀のものですよ。保証します。」
「素晴らしいですね。こういうのはどこで探してくるんですか?」
「それが、私の仕事ですから」
そのときのマダムのにっこりとした顔が忘れられない。
詳しくは教えてくれなかったけれど、その笑顔からいろいろ想像を掻き立てられた。
「どこの国のものかしら?」
「ヨーロッパ、オランダかもしれないわ。ちょっと待っててくださいね。調べてみます。」

絵の下の方には、小さい字で名前が入ってる。
Sellier. Sc
マダムが厚い辞典を持って戻ってきた。
「フランスの版画家ですね。たぶん息子さんの方だと思います。」
「こういう辞典があるんですね。」
「これは12巻目ですよ。」

18世紀に亜麻の花を観察して描き、版画にしてそれを刷った人がいた。
もうそれだけで、充分幸せな気持ちになれた。

その気持ちをずっと持ち続けたくて
その日は、この一枚の版画を手に抱えて家に戻ったのである。

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その古書店の名は
「Le Jardin des Lettres 文学の庭」

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今、店先には色の付いた蘭の絵が飾られている。


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マレの一部に小さい亜麻畑を作りたいと思ったのは数年前。

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少しずつ実現できるように、亜麻を増やしている。

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やがてマレに広がるはずの
風にゆらゆらと揺れる今日の青い亜麻の花たちの向こうには
18世紀の亜麻の花も揺れるような気がしてくる。

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今朝は、爽やかに晴れた。
亜麻の花の色にも似た空の色。

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18世紀の亜麻の花との出会いは
6月の小さいけれど大事な出来事。



by echalotelle | 2016-06-26 19:40 | 表現されたもの、本・映画など

liberte,amitie,illimite


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