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二百十日の『二百十日』

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二百十日。
何が二百十日かというと
春分から数えて二百十日目なのだ。

およそ9月1日頃、今年は8月31日。
稲が開花したり果実などが実り始める時季ではあるが
天候が荒れやすくて被害を受けやすい頃でもあり

今回の台風10号では、東北や北海道で被害が出たとのこと。
大きな被害が出るかもしれないとわかっていても
それを避けられないのは悲しいものである。

お悔やみやお見舞いの言葉しか言えないのも空しいけれども
その地の方々が、なんとか乗り越えて前を向いて行けるように祈ります。


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漱石の小説の中に『二百十日』というものがあって
いつかじっくり読みたいと思っている小さい漱石全集の第4巻を引っ張りだしてきた。

そんなに大昔というほどの本ではないのにケースは日に焼けてしまっている。
いや、1979年発行の版だから37年前、
それなりに時間は経っているということだな。


圭さんと碌さんの二人が阿蘇山に登ろうとして泊まっている宿での会話で始まる。
二人の会話は軽妙で落語のようだ。
湯にはいる場面では
豆腐屋の息子である圭さんが
「豆腐屋出身だからなあ。體格(からだ)が悪いと華族や金持ちと喧嘩は出来ない。
こっちは一人向(むかう)は大勢だから」
「…付け上がるのは華族と金持ちばかりだ」と口にしたりする。
風呂場を出ると
≪上り口には白芙蓉が五六輪、夕暮れの秋を淋しく咲いて居る。見上げる向では阿蘇の山が
ごうゝ~と遠くながら鳴って居る。≫

翌日、阿蘇へ登る道すがらではフランス革命の話にも及ぶ。
≪「なあに佛國の革命なんてえのも当然の現象さ。あんなに金持ちや貴族が乱暴をすりや、
あゝなるのは自然の理屈だからね。ほら、あの囂々鳴って吹きだすのと同じ事さ」と
圭さんは立ち留まって、黒い煙の方を見る。≫のである。

道がはっきりしないうえに、台風の接近に伴う荒天で結局登山は中断して
宿に戻って翌日は、好天。
昨日は、「二百十日だったから悪かった」のだ。
宿を去る前にも、また華族や金持ちの話が出る。
「いや、日に何遍云っても云い足りない位、毒々しくってづう々々しい者だよ」
「我々が世の中に生活してゐる第一の目的は、かう云ふ文明の怪獣を打ち殺して、
金持ち力もない、平民に幾分でも安慰をあたへるのにあるだらう」
そして最後は
≪「そこで兎も角も阿蘇へ登らう」
「うん、兎も角も阿蘇へ登るがよからう」
二人の頭の上では二百十一日の阿蘇が轟々と百年の不平を限りなき碧空に吐き出して居る。≫
と終わる。

明治39年に書かれた小説だが
世の中に対する不満や革命への気持ち、
この季節に台風に行く手を阻まれる天候、
今現在の状況とほぼ同じではないか
と読み終わった直後に思った。

明治39年は1906年。
今から110年前。
時代は変わったようで、でも、根本的な社会の仕組みは変わっていないのだな。
というよりも、変えようと思っては元に戻り
その繰り返しなのかもしれない。
これは人の人生の長さに関係しているのかもしれない。
戦争のむごさも2代は伝えられても、3代目には伝わりにくいのとも似ている。

小説の細かい部分をよく見ていくと
いろんなことが読み解けたり、いろんな疑問が湧いたり
興味を引く問題点に出くわしたり
漱石の小説の中では、あまり表にでない作品だけれども
かなり内容の濃い作品ではないかと思う。
また時間を置いて読み返してみたい。

この全集の本の装丁も読書欲を湧かせてくれる。
布の手触りがよく、明るい朱色が意欲につながる。

*漱石全集 第四巻 岩波書店

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短い小説とはいえ、ゆっくりと本を読むことができたのは
じっとしている時間が必要だったからなのです。
28日にマレで作業をしているときに腰が痛み始め
これは怪しいと思いながら家に戻ると
ぎっくり腰の一歩手前くらいの状況であることに気づき
できるだけ大人しく静かにしていようということにしたのです。

大人しくして3日目の今日は
少し痛みが治まってきたので、それでも用心して畑に行くのは止めにして
しかし、掃除ぐらいはしようと掃除機をかけ、モップをかけているときに!
あ~あ、激痛走る!の巻であります。
元の木阿弥・・・
いや、これは荒療治だったと信じて、明日、二百十一日はよりよくなる希望を持って
また横になろうではないか
と思う夜でありました。

やはり、農家には厄日とされてきた二百十日は
私にとっても気を付けた方がいい日であったのかもしれません。
心身ともに夏から秋への衣替えの時季、
夏の活動の疲れが出て、少しペースを落として秋の静かなモードへと切り替える
そんな時季なんだろうな。

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ミラベルの収穫とジャム作りに明け暮れた8月は
ぎっくり腰とともに終わりを告げ
新年度の始まる9月へと進みます。

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「なんとか秋も頑張りましょう!
母さん、あたしがついています!!」
U^×^U*



by echalotelle | 2016-08-31 23:58 | 表現されたもの、本・映画など

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